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東京高等裁判所 昭和34年(ネ)2849号 判決 1961年1月30日

控訴人 平和相互銀行

事実

被控訴人(一審原告、勝訴)の主張破産会社の振出にかかる約束手形が不渡りとなり、振込銀行の申出によつて東京手形交換所は同年七月十一日第一回特殊不渡報告をなし、さらに同月十七日第二回特殊不渡報告をした上、同月十八日取引停止報告をすると共に、右各報告書は何れも同交換所加盟銀行及び関係金融機関に配付されたから、控訴銀行においても遅くとも同月十一日以降は破産会社の支払停止を十分に知つていた筈である。

控訴人平和相互銀行の主張 東京手形交換所の第一、二回特殊不渡報告及び取引停止報告があつたことは認めるが、控訴人は当時これを知らなかつたものである。従つて、控訴人がこれを知らなかつたことに過失があるとしても、本件掛金徴収につき控訴人には悪意がない。

理由

被控訴人は本件掛返金はすべて破産会社が控訴人に支払つたものである旨主張し、控訴人はこれを破産会社の連帯保証人古谷喜平から徴収した旨主張するので、この点について判断するのに、証拠によると、本件掛返金のうち金七万八千百七十五円は小切手八通をもつて支払われているが、そのうち五通は何れも第三者の振出にかかり、その裏面には破産会社取締役社長高井雄介という記名、捺印、あるいは高井松太郎という署名もしくは高井という印影が存することが認められるが、一方、他の証拠によれば、訴外古谷に対する昭和三十二年度の事業税課税標準額がわずかに金二十万四千円であることが認められるから、同訴外人が昭和三十二年八月から昭和三十三年三月に至る七カ月の間に合計三十数万円を支払うことは甚だ困難であると推測される。これらの事実と原審における証人高井雄介の証言、被控訴人本人尋問の結果を併せ考えると、破産会社が昭和三十二年七月手形の不渡りを出して資産状況が悪化したので、控訴人は破産会社に支払の督促をすると共に、保証人である訴外古谷に対してもその保証債務の履行を求めるに至つたので、同訴外人は破産会社代表者高井雄介方に行つて控訴人に対する債務の履行方を要求し、破産会社から現金を調達させ、あるいは第三者から入手した小切手を提供させて、右雄介の母などからこれを受領し、これらをもつて控訴人に入金し、後記認定の昭和三十三年三月十五日支払いの金六万円をのぞいてその余の分の支払いをなしたものである、と認めることができる。

他方、証拠によると、訴外古谷は昭和三十三年三月十五日控訴銀行から金十八万円の給付金を受けるさい、破産会社関係の保証債務残金六万円を差し引かれ、これによつて破産会社の控訴人に対する掛返し債務が完済されるに至つた事実を認めることができる。

以上の次第で、本件掛返し金三十九万円のうち金六万円を除いた金三十三円については、仮りに右掛返し金の受け渡しが控訴人主張のように控訴人と訴外古谷との間に行なわれたとしても、右古谷は破産会社のため支払行為を負担したいわゆる履行補助者にすぎないものと解するのを相当とするから、控訴人は破産会社社からその支払いを受けたものと認めざるをえない。

しかして、東京手形交換所が破産会社の第一二回不渡りの報告、取引停止の報告をなしたことは当事者間に争いがなく、さらに右各報告は同交換所の加盟銀行である控訴人に対し何れもその当時なされたものと認められるところ、およそ控訴人のような銀行その他の金融機関は自己の取引先の信用状況を常に注視し、その調査を怠ることがないのを通例とし、手形交換所からの報告を等閑視するようなことはありえないことであるから、特段の事情の認められない本件においては、控訴人は右各報告を十分了知していたものと認めるのが相当である。

してみると、控訴人は破産会社の支払停止の事実を知りながら破産会社から本件掛返し金のうち金三十三万円の弁済を受けたものというほかなく、破産法第七十二条第二号により右各弁済は破産財団のために否認せらるべきものであるから、破産会社のなした右弁済を否認する被控訴人の請求は右の限度において認容すべきものである。

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